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  • 執筆者の写真a.t.

【第一章】必死に生きた記憶(1)

『必死に生きていた』あの目まぐるしくも懐かしい日々。鮮明には思い出せないものの、あの日々は俺の大切な生きた証だ。



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 【西暦2480年】


【時空歴222年】


《旧 東京都 新宿区》

《現 第四区画 西エリア》


五階建て。ボロボロな小さいビルの一角にて、


「折角の10歳の誕生日だ!死んでも忘れ無いぐらい、特別な誕生会を開こうぜ!」


唐突な提案だった。

その提案をしたのは、10歳を目前にした4人の少年少女たちの前で、いかにもリーダーというような存在感を放っている『A(エー)』という名の少年だ。トレードマークのツンツン頭の金髪が揺れている。


「はぁ、『A』はいつも唐突なんだから。そういうのって準備とかいるんだろ?ちゃんと考えてるのか?」


「硬いこと言うなよ『B(ビー)』、どーにかなるさ」


能天気すぎる答えを出す『A(エー)』に対し『B(ビー)』と呼ばれた眼鏡の少年がヤレヤレと首を振っている。


「Bの言う通りだよ…僕らの生活には…ほら…そんな余裕はないでしょ」


「『E(イー)』もBの味方かよぉー!」


Bの隣に座っていたボサボサの髪を目元まで伸ばしている内気そうな少年『E(イー)』が遠慮がちに言った。


「あのなあE、こんな生活だからこそパーッと派手にやりたいわけよ」


そう言い放ったAはそのままEの隣に視線を移すと、そわそわしつつ首を縦にブンブンと振っている少女と目が合う。


「『C(シー)』はどう思う…って聞くまでもなさそうだな」


「あたしはさんせーい!」


待ってましたと溌剌と答える活発そうな少女、『C(シー)』はかなり乗り気なようだ。


「誕生会って言うからには美味しいお菓子も出るよね!」


Cが身を乗り出し目を爛々と輝かせてワクワクした様子で言う。


「お前が主役の誕生会じゃないからな…まあ贅沢品を仕入れられるかって話ではあるんだが、」


Aがまた全員を見据えて言う。


「最近、機関から流れてくるはずの支給品の一部がどっかの大人達のグループに独り占めされてるって噂がある」


口々にへーとか聞いたことないななどと言っていると、Aが挑発的な笑みを浮かべる。


「そんなんずりーじゃんか、取り返さねえとよ」


ずるーい、とCがそれに賛同を示す。しかしEやBはまだ承服しかねるといった表情のまま唸っている。Eがおずおずと口を開く。


「申請が受理されてないだけかも知れないし…」


「まあ確かになんでも持ってきてくれる訳じゃないけど、最近はほとんど基本的な支給品だけだ。怪しくね」


「でも噂だし…」


「実際に持ってたら真実だぜ?確かめるだけでもさ」


「で、でもまたこの間みたいになったら…この間は乱闘騒ぎになって…それで…」


「『接触注意の糞ガキ集団』って名前が付いたって?んなもん気にすんなよ。ここじゃ、これだって生き方のひとつだ」


AがそういうとEは黙ってしまった。


「一切道徳に反さず一生を過ごすなんて無理な話だ。アウトローにはアウトローで対抗する」


「…『ここ』で生き残るには、それしか無いだろ?」


Aが先程までとは違う真剣な表情になり、静寂が訪れる。

静寂を破るように、Aに話しかけられてからずっと考え込んでいたBが困り顔で笑いを零す。


「こうなったAはもう誰にも止められないな」


それに便乗してCも、


「やろうよ、誕生会!あたしも『D(ディー)』の喜ぶ姿を見たいしね!」


と言い会の主役になるはずの少し大人びた少女、『D(ディー)』に抱きついた。微笑んで話を静観していたDはCに抱きつかれもみくちゃにされている。


「まあ、主役はお前だ。やりたいかやりたくないかはDが決めてくれ」


AがDに向き直り問いかける。Dは少しだけ考えるようにした後、ゆっくりと口を開いた。


「そうだなぁ私は、もしそれが出来るなら…凄く嬉しい、かな」


遠慮がちだが確かに嬉しそうな表情を見せたDは皆の顔を順番に見ていく。全員が頷きながらDに笑顔を返す。最後にDがEを見るとEは顔を赤らめつつ視線を逸らした。


「ま、まあ…Dがそれでいいなら…僕も…それで良いケド…」


どうやらEも最後のひと押しが決まり観念したようだった。


こうして『Dの誕生会』の開催が決定した。


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私たちにとって彼、『A』の存在はとても大きなものだ。

彼は持ち前のリーダーシップで、他人同士だった私たちをまとめ上げこのグループを形成した。彼らと生活を初めて二年以上経つが、彼が『良い奴そうだったから』と引っ張ってきたこの5人のグループが私は大好きで、今や一人一人がたまらなく愛しい家族のような存在だ。生活は厳しいものを強いられてはいるが、彼らとならきっと楽しく変えていける。

彼らは今回も私、『D』の為に誕生会を開催してくれるのだという。


「いよいよ明日だぜ!しっかり寝て備えねえとな!」


そしてその『Dの誕生会用の諸々ゲットだぜ作戦(A命名)』が近づいてきていた。Aが私たちの住んでいる『基地(アジト)』のいちばん高いところに立ち、オーダーをかけ始める。


「Bは『アレ』の手入れと最終チェック、Cはとりあえず今ある誕生日会に使えそうなもんを集める係な」


「はいよ」「はーい!」


BとCはAの言った作業に取り掛かる為腰を上げた。


「Dは休んでてくれ、主役だし。Eは…まあなんかやっててくれ!」


「僕だけ雑…」


Eはとりあえず何かしら手伝うためBとCの方へ向かう。


「で俺は司令塔!」


「それは何もやってないって言うんだぞ」


Bがすかさずツッコミを入れる。


「しょうがねえなあ。じゃあEと俺で外にちょっと出て使えそうなもんがあるか探索しに行くかー」


「私も一緒に行っていい?何もしないのは退屈だから」


「おう、じゃあ3人で行くぞ!ついてこい!」


早足で外に出たAの後ろを、「待ってよー」とEが追いかけていく。

Aはいつも私たちを引っ張っていってくれる。Aがいつも私たちに与えてくれる。この大切な名前だって彼が決めてくれたものだった。


彼によってこの5人が続々と集められ、今のメンバー全員が揃ったあの日。


「今日はなにをするんだ?『リーダー』」


そう問うたのは『リーダー』に一番最初に連れてこられたらしいボロボロのメガネをかけた少年だ。


「名前だ!」


「なまえー?」


リーダーの返答に活発そうな少女は不思議そうにしている。


「ああそうだ!」


「まだ会って間もないから全員お互いの名前を知らねーだろ?『リーダー』の俺しか呼ばれねーんじゃ他のお前らは区別がつかねえし不便だ。だから新しい名前をつけてやる!」


「付けるって…そんな急に…」


「でも、呼び合う名前がねーのは事実だろ?」


「そうだけど」


「あ、でもあたし…」


活発そうな少女が不意に何かを思い出したかのように俯く。


「あーまあなんつーか、元々親に付けてもらった名前ってのはあるだろうけど…」


彼によってここに集められたのは彼と同じ境遇を持つ、親を亡くしたり、親に捨てられてしまい孤児となってしまった子供たちだ。

親を『奴ら』に殺された者。自分だけ取り残され、『第三区画』に移住する家族に捨てられてしまった者。様々な事情がある。

親から貰った名前は大切な物だが、それがもう居ない家族という辛い過去を呼び起こしてしまう事にも繋がる。だから新しい名前を付けることに意味を見出したのかも知れない。悲しい過去を全員で断ち切るために。


「それにさ、俺たちは新しい家族になって俺たちだけの新しい生活を始めるんだ!だからその…心機一転みたいな、そんな感じだ!」


心機一転なのかなぁ…と内気そうな少年が首を捻っているが『リーダー』はそのまま続けた。


「そうすればきっと、今までとは違う新しい世界が見えるようになるはずだから」


新たな名前を付けて呼び合うこと。それが彼にとって、私たちにとって大きな意味を持つということは全員が理解した。


「リーダーの言うことはわかったけど、でも名前ってそんなすぐ決められるものなのか?」


眼鏡の少年が疑問を浮かべる。


「別に簡単で良いんだよ。どうせ他の人と関わることはあまり無いだろうし覚え安いやつで」


「俺はリーダーだからトップのAな、お前がBで、お前がC、お前はDでお前はE!」


アルファベット?ってやつだ、とつけ足した。

本当にとても簡単な、文字列から一文字取っただけの名前。それでも私たちは繋がりを感じられる名前を持てたことがなんだか嬉しかった。


「どう…かな」


私たちの反応を期待しているリーダーは少しだけ自信なさげにしている。

そこでメガネの少年が再び口を開く。


「なるほど、俺はBか」


「ああ、お前はサブリーダーって感じがするからな!俺の次、2番目の文字だ!」


「わかった。サブリーダーな」


眼鏡の少年、Bが呆れ顔で笑う。


「英語だ!なんかかっこいいね」


Cと呼ばれた少女がはしゃぐ。


「私がD…うん、なんかしっくりくるかも」


Dも優しく微笑みそれを受け入れた。

そして最後に前髪で目が隠れてしまっている少年がボソリと呟く。


「ぼくは…E…うんすごくいい…と思う」


表情は見えないがその少年も嬉しそうに見える。


「なんだそれ『E』と『良い』かけてんのか!」


自信なさげだったAがいつもの調子に戻り、EをからかうとCもつられてはしゃいだ。


「ギャグだ!」


「ちがっ…そういう意味は特になくて」


ジョークなど言わなそうなEとAとのやり取りにみんな笑ってしまった。

彼らと生きていく。

彼となら新しい世界が見れるような気がした。根拠なんて無い、それでも…私は…


こうして私たちは新たな名前を手に入れた。


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メンバー毎の仕事の振り分けが終わり、私はAとEと共に基地(アジト)の外にパーティで使えそうな物を探しに来ていた。とりあえず私たちは基地からさほど離れていない場所で倒壊していた建物を見つけ、その傍を散策し始める。Aによるとここは元々『スーパーマーケット』と呼ばれる色々な物を売っていたお店の跡地らしい。


「流石に食いもんはないかも知れねえけど、例えばほらこのいろんな色の布とかなんかに使えそうじゃね?」


「カーテンかな…経年劣化で少し汚れてはいるけど…確かに洗えば装飾品として使えるかも」


「だよな!あ、そうだ思い出したぞ!確かパーティでは三角形の帽子を被るんだぜ」


「あ、それ私もなにかの本で見たかも」


「僕の中のパーティのイメージと言えば…キラキラしてるような…感じかな。なんか光ってると言うか」


「いいなキラキラ!探そう」


他愛ない事を話しながら私たちは基地から背負ってきた大きめのバックパックに使えそうなものを詰め込んでいく。

バックパックは段々と膨らんでいき最後にはいっぱいになってしまった。


「結構重いな。そろそろ基地に戻るか」


Aが着けている時計をこちらに向け一時間ほど瓦礫の中を漁っていたことを教えてくれた。

ガラクタと言えなくも無いものを漁っていただけだったが、私は達成感と心地よい疲労感を覚えていた。

3人でバックパックを背負い直し、基地へ向かおうとした。その直後だった。


ガシャアアアアアン!


雷鳴の様な轟音が周囲に響き渡り、地面がわすがに揺れる。何度も聞いたことがある、ただここまで間近で聞いたのは初めてかもしれない。この轟音は『奴ら』がそこに現れる事を意味していた。

進もうとしていた道の先、その周囲の空間がまるで裂けるように歪みそこから黒い影が這い出してくる。


ーーーギギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!


四足歩行の黒い影はけたたましい雄叫びを上げている。


「2人共隠れろ…!」


私たちは素早く近くに積み上がった瓦礫の影へと身を潜めた。

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第四区画、それが私たちの生きるこの場所の名称である。


過去に起きたとされる日本全土を巻き込んだとても大きな紛争、そして『奴ら』の出現によって私たちの国は半壊した。

その後、まだ壊滅していない箇所の日本の都市部は活動区域を縮小。そして現在、東京はかつての東京都の範囲の4分の1の地域を活動区域に定め、内部を第一から第四の区画に分けた。

ただ分かれているだけという訳でもなく、この数字が若い順から安全に生活が送れるとされている。というのも第一区画には行政などの最高機関が集まり、それを守るように第二区画には防衛機関が設置されている。

第三区画は整備された一般居住区となっており、防衛機関の隊員が常駐し『奴ら』の危険から護ってくれている。

そして、私たちの住む第四区画は紛争や『奴ら』からの被害を真っ向から受けほぼ壊滅したまま放置された最低の区画。

数ある区画内でも特に『奴ら』の湧きが多い場所だ。出張してくる防衛機関の隊員でも手に負いきれない事がある。

ある程度の資産があるものは第三区画に住むことが出来るが私たちのような親の無い子供や貧困層の人間はここに住むことを余儀なくされていた。

第四区画は広く、整備もされていないことから防衛機関の人間の手が及びきらないとして反社会的勢力が息を潜め、その身を隠すための隠れ蓑のような場所にもなっている。


反社会的勢力そして『奴ら』、


『亜空堕(あくうおち)』


そう呼ばれるどこからともなく現れる化け物達はいつも私たちの生活を脅かし続けている。


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『必死に生きていた』あの目まぐるしくも懐かしい日々。鮮明に思い出せる記憶の数々を、あの日々を俺たちは絶対に忘れないだろう。













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